2015年12月24日木曜日

クリスマスの支出はもったいない?それとも賢い?



 メリークリスマス。全学部コラボ企画、「学問のミカタ」、12月のテーマは「クリスマス」です。皆さんは、どのようにクリスマスを過ごされますか。今年は24日、25日ともに平日なので、普通に仕事や学校という方が多いでしょうか。東京経済大学では、年内の授業は22日に終わり、学生たちは冬期休暇に入ったので、平日でもいろいろとイベントを予定している人も多いかもしれません。私のゼミの場合、毎年、1月のはじめが締め切りとなる「日経STOCKリーグ」という日本経済新聞社主催の株式投資学習のための学生向けレポートコンテストに参加しているため、ゼミ生はこの時期忙しいのですが、それでもいろいろとクリスマスらしいイベントをそれぞれに予定しているようです。
 かくいう私は、一足早く23日の祝日に家族でクリスマスパーティをしました。ちょうどその日が、お義母さんの誕生日ということもあって、そのお祝いも兼ねて、妻の兄弟家族みなで集まりました。子供たちも御馳走に、クリスマスケーキ、そしてお待ちかねのプレゼント交換と、楽しいイベントの連続にはしゃぎ続けていました。
本当に楽しい一日となったのですが、それなりの支出も伴いました。そこで、ここではクリスマスの支出について考えてみたいと思います。
 
 上で述べたように、クリスマスには、この時期特有の支出が伴うケースが多くあります。その典型が、ケーキです。普段はケーキをそれほど食べない人でも、クリスマスくらいはケーキを食べる、ということはよくあるのではないでしょうか。下のグラフは、総務省統計局が発表している品目別の家計支出額のデータに基づいて作成した、平成26年における二人以上世帯の各月のケーキへの平均支出額の推移を表しています。

1:平成26年の1世帯当たり月間のケーキ支出金額(二人以上の世帯)
総務省統計局の公表データより筆者作成

表から明らかなように、他の月に比べ12月の支出が突出して高くなっています(1月から11月の平均支出額が約500円、12月が1324円)。
 さらに、12月の中での各日のケーキへの支出額の推移を見てみましょう。

2:平成26年の1世帯当たり12月の日別ケーキ支出金額(二人以上の世帯)
総務省統計局の公表データより筆者作成

やはり、23日から25日、特に24日の支出額が他の日に比べて、明らかに高いことが分かります。1223日から25日の3日間における1日あたりのケーキへの平均支出額は、約218円となっています。
ただし、この3日間のケーキへの支出の全てがクリスマスケーキへの支出であるとは限りません。というのも、義母のように、たまたまその3日間に誕生日がある場合など、この3日間でもクリスマス以外の目的でケーキを買うケースも想定されるからです。この点を考慮するために、クリスマス以外の1日におけるケーキへの平均支出額を求めてみると、平均支出額は約17円でした。したがって、その差額である約200円×3日間=600円は、日常的なケーキ支出ではなく、クリスマスだけの特別なケーキ支出であると解釈できることになります。以上の計算と、日本の二人以上世帯数は、おおよそ3000万強であることを踏まえると、少なくとも180億円以上のお金が、クリスマスケーキに支出されていることが分かります。単身世帯による支出も加えれば、その額はさらに増えるでしょう。

 このようなクリスマスの特別支出は、ケーキだけでなく、食事やプレゼント、レジャー全般において発生しています。つまり、クリスマスは普段に比べ、人々の消費意欲、購入意欲が大きく高まる時期であるといえます。

ところで、同じように人々の購入意欲が高まるイベントに、バーゲンがありますが、この二つには大きな違いがあります。それは、クリスマスはこの特別な時期における支出そのものへの欲求の高まりであるのに対し、バーゲンは安売りに対する反応である点です。いわば、前者は需要曲線の変化(右方シフト)であるのに対し、後者は供給曲線のシフト(下方シフト)であると捉えられます。
そして、そう捉えた場合、経済学を少しでも学んだことがある人であれば、そのとき発生する経済現象の違いは簡単に予想できるはずです。すなわち、どちらのケースでも、取引数量が増えるのは同じですが、前者の場合は取引価格が上昇するのに対し、後者の場合は取引価格が下落することになります。
 つまり、クリスマスの時期に、消費者の消費意欲自体が高まっている場合(その意欲の高まりが文化的なものから発生しているのか、企業の広告戦略から発生しているのかは議論の分かれるところですが)、この時期の商品価格は、他の時期に比べ割高に設定される可能性が高いといえます。こう考えると、クリスマスの時期によく見る広告文句が、「安売り!」や「大特価!」などではなく、「新商品発売!」、「この時期だけの限定メニュー!」などであることも合点がいくわけです。

 では、商品価格が割高になりがちなこの時期は、敢えて支出を抑える方が賢いのでしょうか。それは一概に言えません。というのも、支出という費用と比較すべきなのは、他の時期の支出ではなく、あくまでそこから発生する自身の満足度であるからです。したがって、純粋にある財・サービスそのものがほしいという場合は、この時期での購入には慎重になるべきであるといえるでしょう。それに対し、クリスマスというイベントの時期にその財やサービスを消費するからこそ特別に高い満足度を得られる、と感じる場合は、多少割高でも思い切って買ってしまうことこそ賢い選択となります。少なくとも私は、上述のクリスマスパーティでは、支出をはるかに上回る満足を得ました。

 お金を使う人も、使わない人も、どうか大満足のクリスマスをお過ごしください。


投稿者 石川雅也

2015年11月25日水曜日

文化祭から物価を考える



 全学部コラボ企画、「学問のミカタ」、11月のテーマは「文化祭」です。少し経ってしまいましたが、毎年、文化の日とその前後には、多くの大学、高校で文化祭が開催されます。大学では、ゼミや部活、サークルがそれぞれに趣向を凝らし、高尚なものからポップなものまで、様々なパフォーマンスを披露してくれます。東京経済大学でも文化祭「葵祭」が毎年この時期に開催され、私もゼミ生たちに招待してもらって、茶道やアカペラ、写真や管弦楽など彼らが所属しているサークルのパフォーマンスを楽しんだりしています。

 また、今年は久しぶりに母校の大学の文化祭にも家族で訪れました。私が卒業して10年以上経って、お酒が全面禁止になっているなど、いろいろ変化していることに時の流れを感じましたが、かつて、私が所属していた野球サークルが今も変わらない場所で、当時と同じ焼き帆立の出店を出しているのを発見したときは、とても懐しい気持ちになりました。

 やはり、文化祭といえば、出店が一番の花形ではないでしょうか。私も大学生になってそれまで買う側だったお祭りでの出店の、出す側に自分たちがなったわくわく感を良く憶えています。学生にとって、出店を出すにあたって、一番悩むのはもちろん、「何を売るか」ですが、ここでは経済学部らしく、それに続く問題、「いくらで売るか」について考えてみましょう。

 文化祭の出店で、何か商品を売る側に回ったとき、その価格設定でまず考えるのは、「出来れば高く売りたい」ということです。もちろん、学生がそれほど高品質な商品を提供できるでもなし、さらにお祭りの中での数日限定の商売ですから、実際は高い値段で利益を稼ごうというよりは、だいたいは安めの価格設定で、とにかくたくさん売れるようにという方向に落ち着きます。とはいえ、この「売る側」に回り、その「販売価格」まで自分たちで決められるというのは、学生のうちはなかなか味わえない貴重な経験です。

 私たちは、普段、消費者という立場からものを考えることに慣れています。そのため、「モノの値段が高い方がいいか、安い方がいいか」と聞かれると、直感的に「安い方がいいに決まっている!」と感じる人が多いと思います。これは消費者、すなわち「モノを買う側」としては、ごく自然なことです。しかし、いざ「モノを売る側」に立って考えると全く見方が変わってくるわけです。「モノの値段の理想の状態」というのは、立場によって全然違ってくるのです。

 次に、上の問いを少しだけ変えて、「物価は高い方がいいか、安い方がいいか」と聞かれると、皆さんは直感的にどう思いますか。ほとんど同じ質問なのに、ぐっと直感が働きにくくなるのではないでしょうか。
 物価とはその字の通り、モノの値段、財・サービスの平均的な値段のことを意味します[i]。こう考えると、やはり消費者としては、「安い方がいいに決まってる」と言いたくなる気持ちもするのですが、一方で、「物価が安くなるとは、すなわち、デフレだよな。最近よく『デフレ不況からの脱却を』なんて言葉を良く聞くし、となると物価はある程度高い方がいいのかな。。。」という気もします。

 この「望ましい物価水準とは?」というイメージしにくい問題を考える足掛かりを得るためには、私は、次の二つのことの理解が必要だと考えます。

まず一つは、「物価の変動と景気の変動は必ずしも同じではない」ということです。なんとなく「インフレ=好況」、「デフレ=不況」とイメージしがちではないでしょうか。実際、このようなペアで発生することが多いです(例、バブル経済、世界同時不況以降の経済)が、過去にそうでない状況を日本も経験しています。例えば、オイルショック時は不況なのにインフレが発生しましたし(スタグフレーション)、2000年代半ばごろには、デフレが進行し続けるにもかかわらず、実質GDPは継続的に上昇し続けた時期がありました(実感なき景気回復)。すなわち、インフレ=善、デフレ=悪と簡単に言い切ることは出来ず、物価変動の是非を考える場合、それを引き起こしている原因まで考える必要があるわけです。

そして、もう一つは、「どんな経済主体も、買う側だけでなく、売る側にもなる」ということです。何も文化祭で出店をやったり、自ら経営者となったりして、商売をする人だけが売る側に回るわけではありません。サラリーマンだって、立派な労働サービスの売り手です。そう考えると、やはり物価は一概に高い方がいいとも、低い方がいいともいえないことということが理解できるのではないでしょうか。

このように物価変動とは、経済現象の中でも大きなものであるにもかかわらず、なかなか捉えにくいであるといえます。現在、多くの国の政府や中央銀行が、「物価を安定させながら、景気を改善(もしくは安定)させること」を目指し、様々な経済政策を行っています。それらの具体的な政策に注目することはとても大切ですが、その背後にある「物価」そのものについて、改めて考えてみることは、実はそれ以上に大切なことなのかもしれません。

投稿者 石川雅也


[i] ちなみに「物価指数」というと、特定の基準年の物価水準を基準に、各年の物価水準が相対的にどの程度なのかを指数表現した値を意味します。

2015年10月24日土曜日

バブル経済…株式市場に発生するおばけ???



 全学部コラボ企画、「学問のミカタ」、10月のテーマは「ハロウィン」です。私が子供の頃は日本には全く定着していなかったハロウィンも、近年は、クリスマス同様、街をにぎやかに彩る一大イベントなりました。もうすぐ一歳になる私の娘もキャラクターになりきることができる服を張り切って着ていました(正確には母親が張り切って着せていました(笑))。娘はもちろんですが、おばけの格好をした子供が“Trick or Treat?”と叫んで回る風景は、とてもかわいらしく映ります。
 
 ところで、このようなかわいいらしい子供のおばけなら大歓迎ですが、株式市場には時々とても厄介なおばけがあらわれます。そのおばけとは「バブル経済」というものです。バブル経済とは、資産価格が投機によって実体経済から大幅にかけ離れて上昇する経済状況、のことを言います。

ここでいう資産価格とは株価のほかに不動産価格などを指す場合もあります。その動向は、株式市場でいえば、端的には日経平均株価の動向でとらえることが出来ます。それに対し、実体経済とは、生産、消費、設備投資など金銭に対する具体的な対価をともなう経済活動のことを意味し、その動向は端的には実質GDPの推移でとらえることが出来ます。
 実質GDPと日経平均株価…いずれもニュースや新聞でよく聞くものであり、感覚的にはどちらも「景気の動向」を示す、似たようなものなのではないか、と感じる人も多いかもしれません。そして、同じように「景気の動向」を示す指標であるなら、そんなに大きく違う動きをすることはないようにも思います。では、実際の両者の動きはどうなっているでしょうか。


図1:日本の実質GDPの動向
(出典)内閣府の公表データより筆者作成

2:日経平均株価の動向
(出典)日経NEEDSより筆者作成


 上の二つの図を見比べてみると、思っている以上に、あまり似ているとは言えない動きをしていることが分かります。実質GDPは全体的には、緩やかな上昇傾向といえるのに対し、日経平均株価の方は全体的に上下動が大きいです。そして何より、明らかに80年代後半から90年代前半にかけての株式市場の動きは、GDPの動きとはかけ離れています。これこそバブル経済です。

 しかし、なぜ同じような景気に関する指標なのに、これほど大きく動きが異なってくるのでしょうか。ここではその理由を2点説明したいと思います。

 一つ目は、実質GDPは景気についての「過去の実績」であるのに対し、日経平均株価は景気に対する「将来の予測」である点です。各年の国内経済主体の生産活動の付加価値の(物価変動の影響を除いた)総額である実質GDPは、「それぞれの年に実際にどのくらい生産がなされたのかという結果」についての指標であるのに対し、株価は、投資家による「株式が将来もたらしてくれるだろう収益に関する予想」に基づいた売買行動によってつけられます。そのため、現時点で景気が上向きではない、実体経済がまだ活性化していない状況でも、将来上向きになると投資家が予想したとき、株価は現時点ですぐに上昇するのです。

 二つ目は、株価が「株式の流通市場」でつけられる点です。株式投資をすると聞くと、「銀行が負債で企業にお金を提供する代わりに、投資家が企業に出資金を提供する」ことをイメージするかもしれません。しかし、株式投資において、実際に企業にお金が提供されるのは、企業が新規に発行した株式を「発行市場」に売り出し、それを投資家が買った場合のみです。実は、多くの企業はめったに株式の新規発行、すなわち、増資は行いません。でも人々は、日々上場企業の株式を取引しています。これがどこでどのように行われている取引なのかというと、これこそが「流通市場」での取引なのです。
 「流通市場」とは、発行済みの株式を投資家間で売買する市場です。すなわち、過去に企業が発行した株式を保有している投資家とそれを新たに欲する投資家との間で、転売取引をするための市場です。いわば、中古市場です。そのため、この流通市場において投資家間で株式が売買されることは、「企業の出資者の途中交代」を意味するのであって、「企業への新たな出資」を意味しません。つまり、流通市場でいくら取引が活発に行われても、それは投資家間での株式と金銭の活発な交換でしかなく、企業にお金がどんどん提供されるわけではないのです。これは、本屋さんで新品の本を買うと、作者に印税が入るが、本の中古市場であるブックオフでどれほど活発に本が取引されても、作者に印税が入ってこないのと似ているといえるかもしれません。
 皆さんが、日々ニュースで目にし、耳にする株価とは、この流通市場での投資家間での取引価格のことです。そのため、本来、株価は「企業や景気の実態についての将来予測」としてつけられるべきであるにもかかわらず、時に、実態を無視し、株価の直接的な決定要因である「流通市場での投資家行動のみの予測」に基づいてつけられる場合があります。この時、投資家の間で株式投資が一種のブームになったりすると、バブルが発生してしまうのです。

 このようにある程度の説明は出来るとはいえ、バブル経済はその発生過程や崩壊過程、そのタイミングがいまだに正確に説明できない、まさにおばけのような経済現象であるといえます。最後に、このバブル経済というおばけは、あらわれるときではなく、消えるときに真の怖さを発揮します。この点は、普通のおばけとは大きく異なる特徴ですね。

投稿者 石川雅也