2015年4月23日木曜日

学問のミカタ(4月):他人の評価は気にすべき?-ケインズの「美人投票」から考える-


 さて、全学部コラボ企画、「学問のミカタ」、4月のテーマは「選挙」です。12日と26日に統一地方選挙があります。また、最近、投票年齢の引き下げも議論されています。ところで、こういった政治家選出のための選挙、投票とは直接関係ないかもしれませんが、経済学には、著名な経済学者ケインズが提示した「美人投票」という有名なたとえ話があります。

 これは、「100枚の写真の中から最も美人だと思う人に投票してもらい、最も投票が多かった人に投票した人達に賞品を与える新聞投票」を行った場合に人々はどのような行動をとるだろうか、というものです。

 少し考えるとわかるように、この時、最適な行動は、「自分自身が美人と思う人へ投票するのではなく、平均的に美人と思われる人へ投票する」ことです。ケインズは金融市場での投資行動を、この「美人投票」のようなものとたとえました。

 実際の金融市場が本当にそのようなものなのか、またケインズ自身が本当にそのように行動していたのかは議論が分かれるところなのですが、それはさておき、「美人投票」から私が考えたいことは「ある行動について、自分自身による評価と他人による評価が異なるとき、どちらを優先して意思決定すべきか」という点です。

 例えば、進路を決める時、自分が満足を感じる仕事と、(多くの場合高い報酬という形で)人に評価してもらえる仕事、どちらがいいのだろう、と悩むことはないでしょうか。または、映画を見る時に、マイナーだけど自分が興味のある映画を見ようか、それとも大きな話題となった大ヒット作を見ようかと迷ったことはありませんか。
 
 「美人投票」のたとえ話は、一見、他人による評価が重要であると伝えているようにも見えます。しかし、これは「最も投票が多かった人に投票した人達に賞品を与える」という投票だからです。すなわち、賞品獲得という自身の利益が、このケースでは他者の評価によって左右されます。

 これに対し、「投票した相手と会うことが出来る」という投票であれば、状況は一変するのではないでしょうか。この場合、会いたい人に会えるという自身の利益は、他者の評価に左右されません。そのため、俄然、自分自身による評価に基づいた意思決定が重要となります。

 つまり、大事なのは、「自分の意思決定がどこから生じる価値を求めての行動に関することか」をきちんと見極めることではないでしょうか。経済において、他者の評価で大きく変動するものと言えば、財・サービスの「価格」です。株式市場でもヤフオクでも人気商品の価格は上がり、評判の悪い商品の価格は下がります。したがって、価格に左右される行動、すなわち、売買・取引を行おうとする場合、他者の評価を考慮することは極めて重要となります。

 それに対し、純粋に財・サービスを楽しむ、すなわち、消費をしようとする場合、そこから自分自身がどれだけの満足を得られるのかが重要となります。したがって、映画であっても、自分が見て楽しむことが目的なら、自分の好みと合った映画を選ぶのが賢明であり、映画を作って儲けようという場合には、多くの人が楽しいと感じる映画を作ることが大切となるわけです。

 当たり前のことのようですが、この取引行動と消費行動の違いを意識すると、様々な場面での優柔不断がかなり解消されるかもしれません。

投稿者:石川雅也