2015年9月28日月曜日

宇宙がもたらす地球の経済



 全学部コラボ企画、「学問のミカタ」、9月のテーマは「月」です。今年の9月は非常に雨が多く、各地に深刻な被害をもたらしました。残念ながらゆっくりと月を眺める機会は少なかったように思います。

 月や星、宇宙といった言葉は、人に様々な想像を呼び起こします。かぐや姫や七夕のような昔からあるおとぎ話や、スターウォーズに代表されるSFなどの物語に一度は夢中になった人も多いと思います(ちなみに私が子供の頃は、ドラゴンボールでのサイヤ人の大猿化やナメック星編の話や聖闘士星矢などにすっかりはまっていました(笑))。昔話の時代からアポロの月面着陸、小惑星探査機「はやぶさ」の小惑星「イトカワ」からの帰還に沸いたつい最近まで、人はずっと宇宙に夢やロマンを感じるようです。
 
 このように宇宙は、ロマンを駆り立てる地球や日常生活からかけ離れた存在のように感じることが多いですが、実は既に私たちの日常の生活や経済と密接につながっています。ここでは、日本の宇宙産業について、簡単に紹介したいと思います。


宇宙産業の構造と市場規模(平成22年度)
 
(出典)社団法人日本航空宇宙工業会平成23年度宇宙産業データブック

上の図は、日本の宇宙産業の構造と経済規模を表しています。ロケットや衛星の打ち上げ、宇宙ステーションなど宇宙産業の中核にかかわる企業に関しては、ピラミッドの最上部、宇宙機器産業と定義されます。衛星によって得られた観測データや衛星放送などといったサービスや情報は、衛星の情報網を通して流通していくわけですが、通信放送衛星などの宇宙インフラを利用してサービスを提供する産業は、宇宙利用サービス産業と呼ばれ、ピラミッドの二段目に位置します。
そして、図の三段目までくると宇宙産業の裾野は大きく広がります。BSCSチューナーやカーナビ、衛星携帯電話端末などの民生機器を製造するものは、下段の左側にある宇宙関連民生機器産業と呼ばれます。宇宙利用サービス産業群から各種サービスを、宇宙関連民生機器から民生機器を購入し利用することによって、自らの事業の効率化及び差別化を図り事業を行っている産業はその右側、ユーザー産業群と定義されます。GPS機能を利用した路線バスの運行状況案内や、同じくGPS機能を利用したピザのピンポイント配達などがその例です。ほかにも、衛星から地球環境のデータを得て事業を行う林業や、様々な魚の漁場の特定や予測に衛星データを活用している漁業なども、ユーザー産業にあたります。

図には各産業の市場規模も示されています。宇宙産業の基幹となる宇宙機器産業が約2600億円、宇宙利用サービス産業が約8000億円と段が下がっていくにつれて規模は大きくなっていきます。私たちの普段の日常と身近につながっている三段目に関しては、宇宙関連民生機器産業が約4.2兆円、ユーザー産業群が約4兆円と上段に比べ非常に規模が大きくなり、日本の宇宙産業全体の市場規模は約9.2兆円に上ります。

このように上の図は、宇宙は既に大きな規模を誇る産業に成長している事と同時に、産業としてはより日常に近い領域の方が大きいことを示しています。つまり、日常的な需要や欲求を満たしてくれる領域ほど経済効果は大きいわけです。それをうけて、政府の政策としても2008年に宇宙基本法が制定され、この法律を基に制定された2009年に宇宙基本計画では、従来、研究開発主導であったものを、利用ニーズ主導に転換し、産業としての宇宙利用の拡大を目指すことが掲げられました。さらに宇宙からの観測・測位技術を用いて、災害時の安心の確保、および安全保障等にも利用することも付記されました。

とはいえ、宇宙基本計画では、衛星の打ち上げ等、他国に頼らないで済む自律性の確保も重要との視点から、中核たる宇宙機器産業の維持、高度化、規模拡大と国際競争力の確保も重点施策として掲げられました。実は、宇宙機器産業のみの市場規模で他国と比較してみると、欧州は約8000億円、米国は約4.5兆円というデータがあり、技術では随所に世界有数を誇ることが出来る日本の宇宙機器産業は、規模的には必ずしも奮ってはいないのです。

以上、日本の宇宙産業の概観でした。いずれの領域も夢やロマンを現実に反映させる魅力的な産業であるといえるのではないでしょうか。

投稿者 石川雅也