2016年8月23日火曜日

会社の利益は誰のもの?


全学部コラボ企画、「学問のミカタ」、2016年度8月を担当する石川です。今月のテーマは「会社」です。この誰もが知っている会社という言葉、辞書で引くと、「会社法により設立された,営利を目的とする社団法人」と出てきます。

 

 このように辞書には営利を目的とするとありますが、「会社経営の最終目的は、利益の獲得である。」と断言してしまっていいのか、については様々に議論されるところです。ただ、利益のみを目的としていたとしても、はたまた、社会貢献を目的としていたとしても、利益を上げ続けることが出来ない限り、会社を存続させていくことは出来ません。また、社会に貢献している会社であるなら、その貢献の対価として自然と利益を獲得することは出来るはずです。やはり、会社にとって利益は、最重要なもののひとつであることは間違いありません。


 また、「会社の目的は何か」、というテーマと同じように、様々に議論が分かれるのが、「会社は誰のものか」というテーマです。会社には、経営陣、従業、株主、顧客、仕入れ先企業、取引先銀行など、多くの利害関係者(ステークホルダー)がいます。税金のことや環境のことまで考えると政府や地域住民も立派なステークホルダーであり、会社はすべてのステークホルダーの利害を考えていく必要があります。


 では、会社が獲得した利益は、誰のものになるのでしょうか?この点に関しては、実は利益にもいくつか種類があり、どの利益の視点に立つかによって、違ってきます。ここでは会社の中でも、最もポピュラーな株式会社で考えてみましょう。




 まず会社の利益の源泉は、会社の本業を通して獲得する売上高です。ここから会社経営にかかる様々な費用や本業の損益を差し引いていくことで各種の利益が計算されます。具体的には、売上高から売上原価を引くと、「売上総利益」。そこから販売費及び一般管理費(販管費)を引くと「営業利益」。そこから営業外利益を足し、営業外費用を引くと「経常利益」。そこから特別利益を足し、特別損失を引くと「税引き前当期純利益」。そこから、税金を引くと「当期純利益」となります。


 細かい説明は、省略しますが、利益計算において、売上高から差し引いていくものを簡単に説明すると、売上原価は主に仕入れ先企業に支払う原材料費、販管費は従業員の給与や役員報酬などの人件費、オフィスの賃貸料、広告宣伝費などの営業上の諸経費、営業外費用は主に債権者に対する支払利息、特別損失は火災損失などの突発的な損失、税金は税金です。


 ここからわかるように、これらの費用とは、(特別損失を除き)各種のステークホルダーへの支払いであり、受け取る側からしたら、それこそが会社からの利益の還元であるといえます。これらが費用と捉えられるのは、最後の利益である「当期純利益」を受け取る立場の視点に立った場合と言え、その立場にあるのが株主です。この点から株主は「残余利益請求権者」と呼ばれます。


 ここから株主は、利益請求に関し、他のステークホルダーより高いリスクに直面していることが分かります。なぜなら、売上高、利益が減少したとき、取引先や従業員、経営陣などは、そこから優先的に支払いを受けることが出来ますが、その結果として残余利益がなくなってしまうと、株主は何も受け取れなくなってしまうからです。反対に、売上高、利益が増加したときは、株主の受け取る残余利益は大きく増加します。もちろん、経営陣の報酬や従業員の給料なども、売上高や利益に応じて変動しますが、株主の利益はそれをはるかに上回る率で変動するのです。


 このように株主は高いリスクにさらされるので、当然、そのリスクに見合った投資収益率を望みます。したがって、当期純利益に関し、株主が望む以上の利益を出せている会社となって、初めて会社は全ての費用を上回る利益(超過利益)を上げているということが出来ます。特に、独占などでなく、市場競争の中で超過利益を上げられている企業は、まさに社会に付加価値を創造している企業といえるでしょう。経済学では、この付加価値の創造こそ企業活動の真骨頂と考えます。


 このように、費用といっても利益といっても、立場、視点によって変わるものですが、付加価値を生み出している、全てのステークホルダーが望む以上の利益を社会にもたらしている企業かどうかという視点に立つ場合、単に会計上黒字であるかどうかよりシビアな視点が必要となるのです。


投稿者 石川雅也


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【ブログ:学問のミカタ】今月の全学部共通テーマは「会社」
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物事の捉え方(学問の見方)をブログを通して伝えます。
今月の全学部共通テーマは「会社」。
同じテーマでも学ぶ分野の違いによって視点は大きく異なります。この【学問のミカタ】を学びたい学問分野探しの参考にしてもらえると嬉しいです。

経済学部 「会社の利益は誰のもの?」
http://tkueconomics.blogspot.jp/

経営学部 「販売会社ってなに?」http://tkubiz.blogspot.jp/2016/08/blog-post.html

コミュニケーション学部 「「会社」はコミュニケーションの宝庫」http://comtku.blogspot.jp/

現代法学部 「世界で最初の株式会社って?」http://genho-tku.blogspot.jp/

全学共通教育センター「「会社」=“Company”?」http://tkucenter.blogspot.jp/